由水十久作品集(能登印刷出版部刊)の紹介(その一)
「木村 孝(きむら たか)先生の七回忌法要が執り行われました。大変お世話になった先生より頂いた本書の序文を思い出に掲載させていただきます。
「詩の志(こころざし)を遊ばせる」
「詩の志(こころざし)を遊ばせる」
木村 孝(きむら たか)(染織研究家・随筆家)
初代の枝を受け継ぐということは、多くの制約を乗り越え乍ら、新しい技法や画題をも発表しなければならない問題が沢山あるもの。二代由水十久先生からある時期には「己(おのれ)を解き放つ」といった言葉もお聞きしました。それこそ自由な発想から生まれるデザインであり、現代感覚のあるテーマを求める苦悩があったと思われますが、その折は、今、立派に結実しました。
加賀友禅は、きものの染色部門ですが、先生の御作品は工芸としての用途だけではない、絵画の美があり、物語を絵にする劇的な具象性に加えて「詩の心」の香気があります。格調高い先生の短歌には気韻(きいん)のある「香り」があります。また各国の時代を語るお作品には「音楽」が芳純に内部から表されています。その図柄の中に楽器があったというような軽い話ではないのです。
日本の古典文学、古典芸能、年中行事など季節感と共に、季の草花の言葉が図柄となっています。外(と)つ国の音楽さえも図案化されている楽しさ。教養高く趣味の豊かさによる華(はな)やぎが見事なのです。
この虚構の世界を染色で表現するには、迷(まよ)いもあるものを、使命感と覚悟を決めた仕事です。男の命がけのお仕事と感じます。
染絵集の「吾子(あこ)」には、わが国独自の『見立(みたて)』の面白さ、その童子が着る衣服には、人物を表す文様が繊細な図案となり、時代考証の正しさに驚(おどろ)きます。
「うなゐ」の遊び姿に感動したのは、襲名されたころからです。
お能の中では、位(くらい)の高い人物などを、清純な「子方(こかた)」とよぶ子供に演じさせます。児童化することで俗(ぞく)から離(はな)れた人物となるのです。
日本芸能に縁が深い金沢の、この作者の凛(りん)とした気品の「童子」ならでは表せない高尚(こうしょう)な清らかさです。人の世の日々の中で、「詩の志(こころざし)」を遊ばせる作者の精神の高さです。
「美しい日本のよろこびの歌」を、絵画として描き、現代に輝く色彩を選び、薫り高く、妙音さえ感じられる高雅な芸術品を創作されつづけられることを、深く祈り上げて居ります。
合掌
2015年 新春
2022年11月02日 13:22