加賀友禅 由水十久工房|石川県金沢市

由水十久工房は、石川県金沢市の加賀友禅の工房です。童子模様を中心にした幅広いテーマを扱っており、先代と当代の二代にわたり、魅力的で最高品質の作品を提供しています。
 

由水十久作品集の紹介(その二)著者の言葉

うなゐ、あこの世界

      二代 由水十久         
 
 私のきもの制作においては童子模様と非童子模様の二つの領域があります。前者は初代由水十久より伝統として継承しつつ「なぜそうなのか」、「どうつくるべきか」という、童子模様のきものつくりにおける心と方法の自覚性を高めて、二代由水十久ならではの新しい平成の創造を成し遂げたいと取り組んできました。
 後者は例えば石川県立美術館所蔵作品として三点有り、いづれも石川県指定無形文化財加賀友禅技術保存会主催の伝統加賀友禅工芸展における金賞受賞作品であり、強い現代性を志向し、花鳥風月や自然というテーマを一度解体して抽象性と具象性の再構成に興味を持って作ってきました。
 
 さて、童子の事を古語で「うなゐ」とも呼び「髪髪」とも書きます。子供が髪の毛を首の辺りまで垂らしている様子、その様な髪をした子供を指します。「宇奈為、頂居、頚居」と万葉集や宇津保物語にあります。最近は「あこ」「吾子」という古語をも加えて、この魅力的な言葉を私の西陣の帯のブランド名としても使用してきています。
 
 私にとって童子模様のきものにおける童子とは、〈はかなく美しい命の表現〉であり、〈喜びの命の表現〉です。そしてそれを通じて古今東西を見立てて、わたしのなりかわりで旅する装置(システム)であるといえます。私自身が作り上げた友禅の虚構の世界に私自身を投げ入れて旅させる諧謔の物語ともいえます。そのテーマという旅目的は広く逍遥するように、例えば和歌を軸とした日本古典文学や、日本神話を始めとする歴史、古典芸能(能、狂言、雅楽、歌舞伎)民俗芸能、伝統の遊び、歳時記、年中行事、中国故事、ギリシャ神話、インド紀行、西洋音楽家、七福神等々の様々なジャンルから、また時事性を持ったテーマなど(例えば2002年日韓共催サッカーワールドカップや東京オリンピック)も、きもの作家としての興味と使命感できもののデザイン化に取り組んできています。
 友禅技法というのは色彩、染、形、構図など様々な点で他の染色より自由度の高い表現手段であることを考え、一つの取り組みとして時代や現実世界という〈俗〉にはいり〈俗〉を出るデザインを目指さねばならないと思ってきました。
 また、私の童子様式は、例えば、顔の表現においては、国宝源氏物語絵巻のように、「引目鉤鼻」様式に近い伝統の「無表情の表情」という表現をねらっています。それは、又、媚びないかわいさ、凛とした気品を備えた慈しむべき童子であって欲しいと願って創作しています。それは多様で美しい日本文化のパラダイスをそこに生きて楽しむ童子です。言い換えれば、そこに遊ぶ姿は実は作者の思いで言えば人生の理想としての翁であり、人間の理想としての翁でもあるのです。従ってそれは童子性と翁性の両面性を持っています。
 そこからは「美しい日本のよろこびの歌」が聞こえてくるよう、恋ひわたる『福島』を含めていつも私は祈って制作しています。

 
2022年11月04日 14:26

加賀友禅 二代 由水十久

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